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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)7222号 判決 1982年8月09日

原告

破産者株式会社サン商事破産管財人弁護士

芝康司

右訴訟代理人

松村信夫

被告

住友商事株式会社

右代表者

川淵秀夫

右訴訟代理人

態谷尚之

高嶋照夫

中川泰夫

田中美春

主文

1  被告は原告に対し金四〇二万八九八五円及び内金八七万九八一九円に対する昭和五五年七月八日から、内金三一四万九一六六円に対する昭和五五年一一月一六日から各支払済みまでそれぞれ年六分の割合による金員を支払え。

2  別紙目録第一記載の債権及び同第二記載の債権のうち金一四六六万七九三二円は原告が有することを確認する。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

5  この判決第1項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し金三一三五万九八一九円及びこれに対する昭和五五年七月八日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  別紙目録第一、第二記載の各債権は原告が有することを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  第1項につき仮執行宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外株式会社サン商事(以下破産会社という)は土木及び建築資材の販売等を業とする会社であつたが、昭和五五年七月一日大阪地裁に対し訴外株式会社有馬商店等から破産の申立をされ、同月八日午前一一時破産宣告を受け、同時に原告が破産管財人に選任された。

2  破産会社は昭和五五年六月二四日当時、被告に対し金五六七八万一四二二円の債務を負担しており(別表(三)の残額合計に八七万九八一九円を加算したもの)、その弁済期は同表記載のとおりであり、同日既に弁済期にあつた債務は同表の番号1と5の合計一八万三二〇四円であつた。

3  破産会社は昭和五五年六月二五日不渡を出したが、破産会社代表取締役森比左雄は破産会社と被告間に何らの契約も存在しないのに同月二四日頃左記各第三債務者らに対し左記各債権を被告に譲渡した旨、それぞれ債権譲渡通知をなし、右通知は同月二五日各第三債務者に到達した。

株式会社態谷組(以下態谷組という)金三一三五万九八一九円

破産会社が昭和五五年五月、六月頃態谷組に売渡した生コンクリート、メタルフォーム、丸鋼などの売掛代金

株式会社大林組(以下大林組という)金二一八九万五五五〇円

破産会社が昭和五五年五月、六月頃大林組に売渡した生コンクリート、ヒューム管などの売掛代金

西松建設株式会社(以下西松建設という) 金三二四六万四六九三円

破産会社が昭和五五年五月、六月頃西松建設に売渡した生コンクリート、ヒューム管、丸鋼などの売掛代金

4  被告は昭和五五年七月七日態谷組から金三一三五万九八一九円を受領し同額の利得を得た。被告は破産会社との間に債権譲渡契約がなく、従つて態谷組から右金員の支払を受ける法律上の原因がないことを知つていた。

5  被告は原告が別紙目録第一、第二記載の債権を有していることを争つている。

6  仮に被告主張の債権譲渡契約が認められるとしても

(一) 右債権譲渡は、破産会社が破産の申立前六月内になした無償行為であり、破産法七二条五号に該当する。

(二) (一)が理由がないとしても、右債権譲渡は破産会社が破産の申立前三〇日以内にしたもので、被告に対する信託的債権譲渡と解されるから担保の供与又は代物弁済となるべきもので、破産者の義務に属しないものであり、破産法七二条四号に該当する。

(三) (二)が理由がないとしても、右債権譲渡契約は破産法七二条一号に該当する。

すなわち、破産会社は小さな商社であり、資産は売掛債権が殆んどそのすべてであつて当時の負債が何億円にも達することは破産会社の代表取締役森において了知していたから、売掛債権を一部の債権者に譲渡すれば当然に一般の破産債権者を害するであろうことを知つていたものといえる。このことは破産会社と被告とは相当以前から取引が継続しているが、その間一度も債権譲渡が行なわれていないことからも明らかである。

7  よつて、原告は被告に対し、第一次的には不当利得返還請求に基づき、利得の償還として右譲受債権を取立てた金三一三五万九八一九円及びこれを受領した日の翌日である昭和五五年七月八日から完済に至るまで商事法定利率六分の割合による遅延損害金の支払と別紙目録第一、第二記載の各債権を原告が有することの確認を求め、第二次的には破産法七二条五号、四号、一号に基づき前記各債権譲渡を否認し、右同額の金員の支払と右同様の確認を求める。<以下、事実省略>

理由

一請求原因1の事実、同3の事実のうち破産会社が態谷組、大林組、西松建設に対し原告主張の債権を有しており、昭和五五年六月二四日頃右各第三債務者に対し被告に右各債権を譲渡した旨の債権譲渡通知書を発送し、翌二五日右各通知書が到達したこと、被告が昭和五五年七月七日態谷組から金八七万九八一九円の支払を受けたこと、原告が別紙目録第一、第二の各債権を有すると主張し、被告がこれを争つていることは当事者間に争いがない。

二原告は当初抗弁1の事実を先行自白したが、後になつて右自白を撤回した。被告は右自白の撤回に異議があると主張するので、自白の撤回が許されるかどうか検討する。

前記争いのない事実に<証拠>を総合すれば

1  破産会社の代表取締役森比左雄(以下森という)は破産会社の倒産を予測し、昭和五五年六月二四日弁護士に依頼して熊谷組、大林組、西松建設に対し請求原因3記載の各売掛代金債権を被告に債権譲渡した旨の通知書と、被告に対する債務の支払担保のため右各債権を譲渡する旨の債権譲渡通知書とを作成してもらい、同日各通知書を発送し、各通知は翌二五日、態谷組等の債務者、被告に到達した。

森は、右の債権譲渡につき、事前に被告と話合つたこととはないが、右通知書を発送する前後ころに被告側の取引担当者である棒鋼課長永田健太郎に電話して熊谷組等に対する債権を譲渡する旨伝えた。

2  被告は、同年七月七日、態谷組から譲渡通知を受けた右債権の支払いとして小切手一通(額面金八七万九八一九円)と約束手形一通(額面三〇四八万円、支払期日昭和五五年一一月一五日)を受領し、右約束手形は期日に決済された。

ことが認められ<る。>

右認定事実によれば、破産会社は昭和五五年六月二四日ころ口頭で、さらに同月二五日に被告に到達した前記債権譲渡通知書によつて、本件各債権を被告に譲渡する旨の申込みをし、被告は同年七月七日熊谷組より前記譲渡通知を受けた債権の支払として小切手等を受領しているから、被告は遅くとも同日債権譲渡の申込を黙示的に承諾したものと解される。従つて、原告のした債権譲渡契約が存在する旨の自白は真実に反しているものとは認められないから、右自白の撤回は許されない。よつて、破産会社と被告間に債権譲渡契約が締結されたことは当事者間に争いがないものというべきであるから、被告に対する不当利得返還請求権があるとの原告の主張は理由がない。

三原告は破産法七二条五号、一号に基づき破産会社と被告間の本件債権譲渡契約を否認の上、請求の趣旨記載の判決を求めているので、その請求の当否につき検討する。

1  被告は破産会社が熊谷組及び西松建設に売渡した別表(一)、(二)記載の商品(熊谷組につき二七三三万〇八三四円相当、西松建設につき一七七九万六七六一円相当)はもともと被告が破産会社に売却したものであるから、被告において動産売買の先取特権を有する商品であつて否認権の対象とならないと主張するので、この点について判断する。

破産会社が別表(一)、(二)記載の商品を同表記載の価格で被告から買入れたこと、そして右商品(別表(一)のゲビンデ、GSナツトを除く)を熊谷組、西松建設に転売したことは当事者間に争いがない。そこで別表(一)のうちゲビンデ、GSナツト合計一三万〇六八八円の転売先について検討するに、<証拠>によれば熊谷組が昭和五五年五月二七日破産会社に対し、右商品を注文したため、破産会社は同年六月四日被告から右商品を買い入れ熊谷組に転売したことが認められる。<証拠>には右ゲビンデ、GSナツトの荷送り先として熊谷組鴻池組共同企業体阪急池田との記載があるが、これは文字通り商品の送り先を示す記載であつて、買受人を示すものではない。又<証拠>によれば熊谷組は原告から右ゲビンデ、GSナツトの販売代金の支払を求められ、熊谷組は既に被告に譲渡された三一三五万九八一九円の債務を支払済みであるのに(前記二認定のとおり)更に昭和五六年六月一九日ころ右代金を支払つたから、右ゲビンデ、GSナツトの販売代金については二重払したことが認められるが、右事実も前記認定の妨げとなるものではない。他に右認定を覆すに足る証拠はない。そうすると被告は破産会社に対して、右別表(一)、(二)記載の商品(動産)に対し、動産売買の先取特権を有していたもので、右動産の転売代金債権に対しては、右先取特権に基づく物上代位権を有していたというべきである。

ところで動産売買の先取特権の目的となつている動産による右売買代金債権(被担保債権)に対する代物弁済は、売買当時に比し代物弁済当時に同動産の価格が増加していないかぎり、破産債権者を害するものではなく否認の対象とならないとされているところ、右動産が転売されて転売代金債権に変じていた場合においても、転売代金債権のうえに物上代位権が及ぶので、転売代金債権を前記売買代金債権(被担保債権)の担保のために債権譲渡することも、右転売代金債権額のうち前記動産の売買当時の価額を超えない範囲においては破産債権者を害するものではなく否認の対象にならないというべきである。従つて別表(一)、(二)記載の商品代金債権(熊谷組につき二七三三万〇八三四円、西松建設につき一七七九万六七六一円)については否認の対象とならないことが明らかである。<以下、省略>

(岡村旦 熊谷絢子 大工強)

目録、別紙(一)、(二)、(三)<省略>

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